穏やかな佇まいながら、芯の強さと内に秘めた情熱を感じさせる瞳…映画監督ロウ・イエ氏がこのたび来日し、第62回カンヌ映画祭で脚本賞を受賞した話題作「スプリング・フィーバー」や自己について語ってくれた。
ロウ・イエ氏は、北京電影学院で映画制作を学んだ中国人映画監督。在学中は、フランソワ・トリュフォーやジョン・カサヴェテスなど、主にフランス、アメリカ映画に没頭し、今までの中国映画とは一線を画する独自のテーマとスタイルを模索していったという。性的描写も含め、ありのままの日常生活を通して個人の内面と、その奥に隠されている普遍的な人間の性を描き出す手法は、早くから国際的に注目されており、2006年に「天安門、恋人たち」がカンヌ映画祭に招待されると、中国を代表する監督として、一躍世界に知られるようになった。そして最新作「スプリング・フィーバー」は、同映画祭で脚本賞という栄誉に輝くこととなった。
「スプリング・フィーバー」は、中国・南京を舞台とした、水面を漂う花のように儚くも美しい、3人の若者の物語である。監督が愛する郁達夫の詩「春風沈酔の夜」に触発されて作られたというこの作品は、中国、日本、シンガポールなどアジアを漂白し続けながら、常に個人をテーマとして突き詰めてきた郁達夫の人生そのものと重なり合っているという。また、物語の背景となっている同性愛が、性を超えたより深遠な愛と、普遍的な自由への渇望を強く描き出している。そして愛と自由を激しく求めながら、孤独と連帯の間を彷徨い続けなければいけない人間の宿命の哀しさが、本作を貫いていると言えよう。
ロウ監督の次回作は、パリを舞台とした、中国人留学生の実話を元にした物語で、既に撮影を終えて編集段階にあるとのこと。監督自身がまるで「スプリング・フィーバー」の主人公たちや郁達夫のように、アジアからヨーロッパへと自身の舞台を移したことで、どんな作品が生まれるのか非常に楽しみである。
「スプリング・フィーバー」は、11月6日から渋谷シネマライズなどで公開予定。初日には豪華プレゼント抽選もある。(林愛香執筆)