2月のニューヨークから始まり、世界各地で行われてきた2008〜2009年秋冬コレクション。しんがりは東京が務める。今回の東京コレクションは、前回に引き続き東京・六本木の東京ミッドタウンをメイン会場に開催され、初参加の10ブランドを含む若手からベテランまで計45ブランドが参加した。10日から16日まで、東京のファッションを世界に発信し、東京の街をファッションの色に染めた。(取材・執筆:謝晨、劉詩音、姚遠)
斬新なチープファッション――Mintdesigns
デザイナーの勝井北斗さんと八木奈央さんはともにセントマーチンズを卒業し、2001年に「Mintdesigns」を設立し、2003S/Sより東京コレクションに参加。得意のプリント柄を生かしたリラックスした雰囲気の服で頭角を現した。前回のコレクションに引き続きモデルの頭部を華やかに飾りつけ、現代的アート的表現をしている。「TRASHI,SLASH and FLASH!」のテーマ通り、細かくシュレッダーにかけられたチラシや雑誌の紙くずを帽子のように頭につけ、ドレスに仕立てた。素材もラグジュアリーやゴージャスとは無縁の、洋服のタグなどに使われるもので、洗濯もできるという。自由な発想で洋服を作り、トレンドに迎合しない姿勢で我流を貫いている。グレーをベースに、春夏を思わせる黄・オレンジ・水色を合わせ、さわやかさをプラスした。ボーダーのほか、千鳥格子・水玉・ギンガムチェック・幾何学模様も登場し、これらの柄を複数合わせたスタイルが目立った。煩雑に見える組み合わせも絶妙なコーディネートで、まとまったスタイルに仕上がっている。日本的な「美」と東京的な「可愛らしさ」で東京コレクションでも注目されるブランドである。
不気味なブラックウサギの世界――Ne-net
デザイナーの高島一精さんは、1994年文化服装学院卒業。2005年にA-net Incの新ブランド「Ne-net」をスタートさせ、同年参加した2006S/S東京コレクションで第24回毎日ファッション大賞新人賞を受賞し、東京コレクションの顔として定着している。「Ne-net」の語源はフランス語の「生まれる」、これまでもファッションの流行や固定観念に縛られず、独特の世界を生んできた。今回のテーマは「もやもや」。かわいいイメージのウサギをダークな黒に染め、可愛さと不気味さを融合することで、憂鬱な気持ちを表した。巨大なブラックラビットがショーを見守るという演出も不気味さを増した。ネクタイやシルクハット、仮面、そして顔を覆う変形パーカにもウサギの耳をつけた。フリルがいっぱいのミニドレスとブラウス、編み上げの厚底靴の組み合わせは「ゴスロリ」をも連想させる。これまでなかった試みなのにもかかわらず、完成度は高く、新たなファンを虜にしたに違いない。
優しくなったボディスーツ――SOMARTA
デザイナーの廣川玉枝さんは会場費支援などJFWの若手育成の試みで開花した才能の一人である。デビューわずかに2シーズンで、第25回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞を受賞し、「東コレの顔」とも称されている。「第二の皮膚」が彼女の変わらぬテーマであり、これまでも2万個のスワロフスキーを飾ったボディスーツなどで話題を呼んだ。今回のコレクションではインドのヘナタトゥーに見られる青い鳥の羽や北欧の森のモチーフを編みこんだボディスーツを登場させた。情熱のインドと極寒の北欧の相反するものを同時に登場させ、寒さの中にも暖かさがある印象を与える。「女性本来の優しさや自然のはかなさを表現した」と廣川さん。またプラスチックに光に反射する塗料を施した新素材も起用し、目の錯覚を起こさせるようなプリズムを思わせる。三角形にカットされたそれを部分的に取り付け、ファッションのアクセサリー感覚として楽しむことができる。歩くとカラカラと心地よい音を発し、同系色にまとめられたスタイルのアクセントにもなった。妖艶さと少女のような清楚さが危ういバランスで混在するのがソマルタ独特の世界観であるが、今回は後者の清楚さがより強調されたソマルタの新境地となった。
ハッピーな劇場的演出――
theatre products / kingly theatre products
シアタープロダクツは2001年に武内昭さんと中西妙佳さんが設立したブランドである。名前の通り「劇場」を思わせるユニークでパフォーマンス要素の強いファッションショーが大きな注目を浴びている。今回でも期待以上の演出を見せた。会場に選んだのは六本木の某スタジオ。撮影という設定で、本物のプロヘアメイクやカメラマンとともに、モデルがポーズを決めて写真撮影し、臨場感あふれる現場を再現した。ファッションは米国歌手シンディ・ローパーからイメージし、1980年代のポップではじけたスタイルを提案した。ピンクや黄色の髪色をしたモデルがアルファベットと水玉模様をプリントしたカットソーやスカートを身につけて、大きなカセットデッキを脇に抱えながら音楽に合わせてノリノリで登場した。一方2006年にスタートしたメンズの「キングリー・シアタープロダクツ」は「果物の持つ清涼感や切なさ、土のにおい」を表現した。グレープフルーツや洋なしをプリントしたセーターなどを着たモデルたちがフルーツを持ったかごを持って場内を歩き回った。茶やグリーンといった落ち着いた温かみのある色で「土」を表現し、レディースの華やかさとの対象的なイメージが印象に残った。
ベーシックカラーにネオンのスパイス――ato
1999年7月CVDC(Paris)にて初めて海外での展示会を行ってから、北米・ヨーロッパを中心に12店舗で取り扱いを開始した。2003年4月東京コレクションにおいて初めてレディースを発表。今回は1000人を収容できる東京ミッドタウンAホールで行われ、満員御礼となった。レディースのテーマは「ランジェリー」。肌を思わせるベージュのサテンと透け感のある素材を組み合わせたドレスや、網目の粗いニットドレスなどクラシックでセクシーな服を披露した。黒のシルクドレスに黒の透ける素材を幾重にも重ね、異素材を楽しみながら張り感を出し、ガーターベルトを思わせる靴下を合わせ、フェミニンなスタイルに仕上げた。カラフルなマウンテンシューズでスポーティさを加え、そのギャップも楽しませた。一方のメンズは前半は可愛らしさが滲み出るくつろぎスタイルだが、後半はato的なスタイルに一変。クラシックなコートにタイトなパンツを合わせ、ネオンカラーのクライミングシューズがアクセントとなり、現代風にアレンジされた英国調スタイルを提案した。
星座が紡ぐドレスのワードローブ――YLANG YLANG
東京コレクションのブランドの中でも、ドレススタイルに定評があり、品物が確実に「売れている」と称されるのは「YLANG YLANG」である。今回もエレガントでクラシックなドレスをたっぷり堪能させてもらった。「ミクロコスモス=小宇宙」をテーマにし、黒光りする床と天井に瞬く星という会場設定の中、バルトーク作曲の「ミクロコスモス」のピアノ生演奏が流れた。「星座に対する思い込みなど、女性特有のミクロコスモス=小宇宙観を表現したかった」とデザイナーの青柳龍之亮さんは言う。星座のマークをプリントしたドレスや星座をモチーフとしたドレスのほか、張り、ボリュームのあるシルエットで女性のフォルムを強調したものが目に付いた。ダークの中にも輝きがあり、クラシックにもモダンをプラスしたイランイランのドレスは全ての女性の心をくすぐり、「かわいい」「ほしい」「着たい」と客席のあちこちからつぶやきが漏れた。「普段は一人ひとりの作業だが、本番は各担当が一致団結する場。チームの大切さを気付かせてくれる」と、新作発表以外の東京コレクションの意味を見出している。「本番ギリギリまで縫っていた、無事に終わって良かった」と青柳さんはほっとした表情で胸を撫で下ろす。
宝石を詰め込んだ中性的ファッション――G.V.G.V.
デザイナーのMUGさんは桑沢デザイン研究所を卒業し、1999年にG.V.G.V.ブランドを設立し、2003年4月より東京コレクションに参加している。メンズ風のファッションをレディースに取り入れ、袖口や腰周りなどのディテールで女性らしさを表現するのがMUG流。今回はスペインの建築家アントニオ・ガウディの建築物や教会のステンドガラスからイメージを膨らませた。彫刻を思わせるフリルや、カラフルなタイルを思わせるプリント、そしてステンドグラスのような宝石のアクセサリーなどである。オレンジや紫などの強い色使いで、女性らしさの中に潜む女性の強さを感じさせた。世界4大コレクションでも多く登場したセットアップスーツはワイドパンツにダブルジャケットをあわせ、その上から細ベルトで程よいバランスを保った。中性的だけどエレガント、クラシックだけどモダンアート的、圧倒的な説得力を持つ、東京コレクションの最終ステージを飾るにふさわしい完成度だった。
新提案!鮮やかなエレガンス――Yukiko Hanai
花井幸子さんは伝統的な着物からデザインを始めた。デザインはいつもホテルに籠って行う。素材見本や絵の具などデザインに必要な材料を全て「引っ越して」、10日間で100点以上のデザインを描く。この道30年以上たった今でも変わらない手法だ。ターゲットが日本のセレブレティであるため、世界のトレンドに流されることのないスタイルを提案し続け、そのクラシックでエレガントな服に多くの女性は憧れ、愛用を続けている。今回のテーマは「Girly Glamour」で、柔らかく構築的なフォルムでニットやカットソーを中心に披露した。ピンクやブルー、シルバー、ブラウン、トマトカラーなどワンカラーのコーディネートを多く見せた。柔らかく高級感溢れる素材のほか、ファーを袖や襟など部分的に飾り付けるスタイルも目立った。コレクションの後半には百花繚乱のイブニングドレスも数多く登場し、魔法のように大人の女性の魅力を引き出す。上質素材で魅せる、ため息が出るほどロマンティックでラグジュアリーなコレクションだった。
クラフト的ラグジュアリー――HIROKO KOSHINO
HIROKO KOSHINOのデザイナー小篠弘子さんは1977年から東京コレクションに参加し、国内外のファッション界のみならず、モダンアートの領域においても広くその名を知られている。今回も妹さんのJUNKO KOSHINOとともに東京コレクションで新作を発表した。直線的なカッティングと東洋の模様・素材との融合を得意とし、現代女性のアジアンビューティを表す。今回のコレクションのテーマは「気ままな戒律」で、「自由」と「戒律」が互いに制約しあう関係を表現した。オープニングでは黒を基調としているが、徐々に朱色や緑が深みを増して登場いていく。シャープなカッティングを施した生地を折り紙のように折りたたんだコートやウエストを絞り、フレアなシルエットを作るドレスなど、東洋らしさを残しつつ西洋を感じさせる服に仕上がっている。高質な素材を多用していながらも、朱色やオリーブ色がクラフト的な温もりを残している。
黒とゴールドの無限掛け算――Junko koshino
東京コレクションの中で最も早くから海外に進出しているブランドの一つであり、国内外からの評価も高い。舞台衣装からスポーツユニフォーム、インテリアデザイン、着物まで活動は幅広い。今回のコレクションは南青山にあるオフィス・ブティックで開催された。黒とゴールドの二色の配色で数多くのスタイルを披露し、無限の可能性を感じさせるステージとなった。皮素材のタイトなミニスカート、光を反射する素材で形に変化をつけたバルーンスカート、裾がバルーンになっているマントを思わせるコートなどに、ゴールドのビーズを部分的に編みこんだトップスとあわせた。暗闇の中にもかわいらしさがあり、小悪魔的な部分があり、内側から輝く女性の強さを印象付けた。実はジュンココシノは1978年に初訪中以来、中国と深いつながりを持ってきた。85年に中国で初めてファッションショーを開催し、当時「中国最大規模のファッションショー」と称された。翌年には北京にJUNKO KOSHINOを開店し、以降も定期的に北京・上海でショーを行った。更に2008年に上海万博PR親善大使に就任し、日中の架け橋として友好に貢献している。
東京ファッションウィークが始まってから、3年の月日が経とうとしている。今回東京コレクションなど中核イベントには延べ約2万1000人が来場し、海外からもアジアと欧米を中心に20カ国から約200人のジャーナリストが訪れた。海外からの来場者も少しずつ増え、その知名度は確実に高まっている。東京ファッションウィークの知名度アップを最も願っているのはおそらくデザイナーであろう。YLANG YLANGのデザイナー青柳龍之亮さんはこんなことを話してくれた。「コレクションでの服はアートではあるが、実生活とかけ離れていて実際に着ることが出来ないと思っている人も多いと思う。でもそれはそれを着るようなシーンがないからだ。服を作ることで、その服を着るシーンを増やしたい。だから東京コレクションがより多くの人に知り渡るようになってほしい。」この言葉には目からうろこだった。確かに、SOMARTAのニットに編みこんだプラスチック素材はファッションのアクセサリーであり、Mintdesignsの紙くずに見える帽子やドレスも洗濯可能な素材でできている。どれも着ることを前提に考案され、アートと実生活の両立を実現させている。「生活スタイルに合ったファッションをするのではなく、着るファッションに合った生活スタイルをする」という新しい服のあり方、そしてその服を作るファッションデザイナーの新たな使命を彼は提案しているのである。そう考えると、服は生活を変えるスイッチとなり、ファッションショーはお買い物の下見となり、東京コレクションが少し可愛くなって、一歩私に近づいた気がした。
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