読書に花を添える付箋紙
読みかけのベストセラーの続きが気になった時、毎日の生活を記録する手帳から今日の場所を見つけ出す時、愛用の英語辞典でどうしても覚えたい単語がある時、突然いいアイデアが浮かんだのに書き付けるノートが見つからない時……そんな大切な瞬間こそ、付箋紙が大いに力を発揮する。2006年度のグッドデザイン賞を獲得した、本物の花びらそっくりのこの花付箋(hana fusen)は、その透明感と繊細さで多くの人に愛されている。
恐らくは世界で最も美しい付箋と思われるこの商品を作り出したのは、30代になったばかりのデザイナー、黒澤夏子さんである。元々は服飾学とグラフィックデザインを学んでいたが、卒業後にデザイン事務所に勤め、五年前から「使う人が楽しむ事で完成されるもの」をコンセプトとしたもの作りを始め、様々な人々とコラボレーションして多くの人気商品を生み出している。
丸みのある花びらの付箋を一枚一枚摘み取っていくと、夢のような楽しさが湧いてくる。ペンスタンドに挿したり、ガラスのコップに立てたりすれば、生け花に変身してデスクの上を温かく彩る。一般の長方形の付箋が退屈なのに比べて、花びらを摘んだり貼り付けたりする感覚は、定型化した文房具の堅苦しさをなくし、遊び心を加えてくれる。
青春時代の心に戻って、「すき」「きらい」……と一枚ずつ花びらを摘みながら恋占いをするのも楽しい。桜の季節に木の下にたたずんでいた時、ピンクの花びらが降り注いできた思い出がよみがえる。本のページの間に花びらを挟んだようなロマンチックなデザインは、押し花のイメージと重なって、本と花の関わりを印象深く感じさせる。おもむきのあるデザインが、デザイナーの溢れる才能を示している。
ピンク、パープル、イエロー、ブルーの4色が独特な世界を作り出す。花付箋は色のグラデーションも美しく、色で区別する機能も備えている。台座はプラスチック製で、はがすのも貼り付けるのもたいへん便利なので、付箋を繰り返し使うことができる。「花付箋を本物の花のように感じれば、一枚一枚摘み取る時に楽しさやはかなさを感じることができるでしょう。そんな気持ちから、普通は使い捨てしてしまう付箋をもっと丁寧に扱って、生活を大切にする心が生まれるのではないでしょうか。」と黒澤さんは言う。
桜、梅、桃……古くから花を初めとする自然の姿を愛してきた日本人の心は、花型の底を持つグラスや夜空に花びらを散らす花火だけでなく、日常的かつ不可欠な付箋のデザインにも表現されている。秋が次第に深まり、本を読むのによい季節がやってきた。こんな可愛らしい付箋をそばに置いて、読書を大いに楽しみたいものだ。(姚遠執筆)
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