2007年8月20日特別増刊(第12号)
 
 
 
ものづくりの新しい仕掛けが登場!それが前回黒川雅之さんの特集で紹介した株式会社Kである。Kは「販売店でもなくメーカーでもなくプロダクションだ」という。・デザイナー・と・製造企業」と・販売企業」の三者の間に立って、「売れるもの」ではなく「つくりたいもの」という「究極の名品」だけをつくりあげ,消費者に提供する仕掛である。展開する15のブランドには「日本人の美意識」、「素材と職人」、「編集的デザイン」というキーワードが潜んでいる。
【ブランド1】 JDZ 景徳鎮の1000年の記憶を現代に蘇らせる
1000年の歴史を持つ景徳鎮の「磁器と絵付け」の文化を拾い上げたいとの思いから開発したブランドである。皿の紋様が料理の芸術性と競合せず、奥ゆかしく料理のつくり手の心を表現するようにと考えた結果、食器の裏側に絵付けを施す『裏絵』に至った。このブランドは上海半島芸術センターに工房を持つ景徳鎮出身の陶磁器作家が一つずつ手描きしているため、同じ物は二つとありません。
【ブランド3】 META テーブルの原型
アルミニュームの鋳造による天板にスチールの脚を取り付けたテーブルのシリーズで、小テーブルから食卓まで順次に拡大していく。最低限の機能、シンプルなテーブルトップがあるだけだが、ちょっとしたオプションも準備している。一つはその下に隠れた棚が付けられる点。灰皿やリモコン、新聞等を置くことができる。もう一つのオプションはテーブルトップの上のトレーで、お盆のように物を運ぶことができ、テーブルに置くとそのままもう一つのテーブルトップになってしまうのである。
【ブランド5】 NM+ ネクストマルニの再編集作品
ネクストマルニのSUKIの椅子の「座の部品」をいろいろに取り替えてみようというのがこのNM+である。その最初の作品は座の部品のカラー化で、この先には皮革による座の部品やソフトなクッションをもつ座の部品などを加えていきたい。その柱梁の空間に座となる装置が装着されていて、SUKI三態は数寄屋から椅子への進化を示している。椅子をフレームと座に分離して考え、座の部品と構造体はゴムを介して接合しているので柔らかい感触をもたらす。
【ブランド7】 P+G シリコンゴムとプラチナの対立的調和
富双ゴムのシリコン成形技術とアーバンゴールドのプラチナ成形技術がドッキングしたジュエリーである。黒い雲の切れ目から射す白い一条の光にプラチナの光と神々しい神のイメージを発見した。ブラックホールのように光を吸収して反射しなく、写真に写らないシリコンゴムになにか悪魔のようなものを感じる。輝くプラチナと光を吸収する艶消しの黒いシリコンという異質な表情をもつ二つの素材が出会って、特異な世界を表現する。デンバーミュージアムのコレクションになっている。
【ブランド9】 SiliconE シリコンによる精緻な生命体的部品
IT関係などで優れたシリコン製品を製造販売しているパワーサポートの技術陣が製造したソフトなハードウエアー。白から黒,そして半透明から透明までの、素材感を重視したシンプル家具のための取手である。収納家具の人の触れる部分は取手だけである。Gomでは黒い艶消しだけだったのだがシリコンを用いることで透明や白い色も可能になった。黒から白へ、不透明から透明へのグラジュエーションでシリーズを開発している。
【ブランド11】 IN-EI 日本の美意識、陰翳の美
日本の美意識の核を成すものに陰翳の美がある。青銅の腐食の様子や影の美しさや逆光の華麗さ、などなど、伝統的な技法を用いた作品が展開される。代表的な作品に「蛍/BETWEEN」がある。数寄屋建築の明かり障子の仕様をテーブルに応用した光る和紙のテーブルである。お茶の立礼棚であるが展示台のように用いることもできる。裏千家の企画でニューヨークで開催された「THE NEW WAY OF THE TEA」と名付けたイベントにも出品された。
【ブランド13】nextmaruni 日本の美意識へのメッセージとして提案された椅子とテーブル
「日本の美意識へのメッセージとして小椅子をデザインしてください」という世界のデザイナーへの依頼から始まった黒川雅之がプロデュースする作品。ネクストマルニプロジェクトは2004年に始まり、計12脚の椅子がミラノで展示され、120を超える世界の雑誌が取り上げだ。人を受け入れる空間性のある椅子、明確な目的をあげることができない住宅、生活空間を作りだす椅子とテープル、人間を支配する空間を隔てる屏風、これらの関係を考え抜いてたどり着いた作品である。
【ブランド2】 PLPL 皿の原点を探る
「碗は手の平から始まり、皿は木の葉が出発点であった」という発想によるシンプルで原型的な皿のシリーズ作品である。碗は手で持ち口に運ぶ器で、身体的感覚と深いつながりがある。それ故、手触りや口触り、さらに重さや形や素材感が大切になる。このブランドには前身となる二つの歴史がある。初めは20年程前に島根県の袖師窯でつくった皿、そして,もう一つは萩でつくった萩焼の皿である。
【ブランド4】 FRAME ユニバーサルフレームによるシェルフとワゴン
1種類のアルミニュームの押し出し成形部材だけで構成するユニバーサルな構造体であり、いろいろな構築物をつくることが出来る。また、一つの部材に他の部材が角度を変えてTの関係でつなげて、それを延長すると、立体まんじができる。この関係さえ守ればどんな構築物でもつくることが出来る。このシステムによる椅子はニューヨークのメトロポリタン美術館とデンバー美術館に収蔵されている。
【ブランド6】 Gom 黒いゴムのインテリア小物と家具用ハードウェア
GOMの黒は白のイメージで象徴される近代デザインへの反抗であり、プラスティックと金属が全盛の近代への反抗である。・素材がソフトだからこそ形態はシャープがいい・ということを創作しながら発見した。長年のゴム成形技術を生かしたこのシリーズは34年前にデザインしたものだが、未だに生産販売されている歴史的名品である。Gマークのロングセラー賞をとり、ニューヨーク・モダーンアート・ミュージアムのコレクションにもなっている。
【ブランド8】 DALI 歪ませる時計
柔軟な金属シートを用いて正確である筈の時計が自在に手で曲げられて不確かな表情に変わる。鉛が持っている手で簡単に曲げられる性質と、空気に触れるとすぐに変色する性質を利用したのがこのDALIである。文字盤の文字は酸化時間の長短の差を生かしている。その酸化の時間の相違が文字の形を曖昧に残し、しかもその差は永久に縮まることはない。K-スタジオの手作りによる作品で、デザイナーたちの手作りの感覚に、あなた自身が手を加えて自分好みの形にすることもできる。
【ブランド10】 TETU 伝統的工芸品の蓋と摘みを蘇らせる
茶道の風呂釜を中心に使用される鋳鉄の需要の広がりにに限界が見えてきた。その技術を現代的な生活具に生かしていこうと、在庫として残った沢山の茶釜の蓋と摘みを発見して、現代的鉄瓶へその利用を思いついたことから始まる。黒谷哲雪による伝統的な釜の蓋、摘みと清光堂・佐藤琢実による現代的なデザインの鋳鉄の鉄瓶とを出会わせた作品。現代的デザインと伝統的工芸を融合させた編集的デザインといえよう。
【ブランド12】 K-COLLECTION 黒川デザインの軌跡
これまでの様々なデザインをそれぞれの企業の協力を得て集めたブランドである。チタン製のフレームによるデュアルウォッチ“CHAOS”は大きいサイズのフェースには丸い窓がある。そこが12時の時に黄色なら昼の12時、ダークグレーなら夜の12時を意味している。海外への旅のときの二つの国の時差や友人が海外にいる時の人を想う時計でもある。花器の悲しさは花のない時には存在を否定されるところである。そこで“FLOWER VASE”という作品は青銅の花を初めから持っている。
K、黒川雅之建築設計事務所、デザイントープ、物学研究会の四つの組織がつながってデザインを総合的に思索し行動する組織が完成し、黒川さんの長年拘り続けてきた「見えない建築」がほぼ完成しようとしている。その「見えない建築」と、それを愛する人を見ることができる。ただ不思議なことにそれは同じような人間ではない。黒川さんの作品はその解釈の可能性を限定しないからだろうか。たとえその人が和服を着ていても、高級なドレスやスーツを着ていても、知的なキャリアウーマンであっても、ひげを生やしたちょいワル親父であっても、はたまたどきどきする少女であっても、その作品と溶け合って、美しい絵を描き出す。

「芸術は告白であり問いである」と黒川さんは話す。しかしより大切なことは、告白であり問いである行為から生まれた作品が人の心の深いところから生まれたものであるということである。それ故に人々のこころに刺激や共感を生み出し、生きる意欲を燃え立たせるのだ。(謝晨執筆)
 

●K-SYSTEM
●デザイントープ
●物学研究会
●金沢サロン
●K-SHOP
●曼茶羅紀行(黒川雅之のブログ)

 
 


 
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