2009年9月16日 特別増刊(第31号)

太陽が輝き、空が青く澄みわたっている。北極圏に近い北欧フィンランドの小さな町オウルでは、時間はいつものどかにゆったりと流れている。だが8月21日、天地を引き裂くような音楽が鳴り響き、歌って踊って歓声を上げる人々の熱狂が静かな町を一気に沸騰させた。――「エアギター」の世界選手権が行われ、この優雅な町に巨大なエネルギーが押し寄せたのである。そして小柄で可愛らしく、笑顔のすてきな一人の日本女性が、ここで初めて世界の舞台に立ったのだった。(劉詩音、姚遠執筆)

「エアギター」は中国語で「空気吉他(エアギター)」「無形吉他(見えないギター)」「幻想吉他(空想のギター)」などと訳されるが、それについてよく知っているのはロックの好きな若者たちぐらいで、大部分の中国人は名前すら聞いたことがないだろう。「エアギター」とは、演奏者の手に本物の楽器はなく、空中で大げさな演奏の身振りをしながら、ロックやヘビメタのギター独奏を真似るパフォーマンスである。
 
「エアギター」は1970年代から世界に広がり始め、1996年から世界レベルのエアギター大会、「エアギター世界選手権」(The Air Guitar World Championships)が始まった。それぞれの国で選抜が行われ、国内の優勝者が出場する。今年から台湾でもエアギター大会が行われ、台湾在住のカナダ国籍の出演者がチャンピオンとなった。
 
日本は5年前から世界選手権に参加し、エアギターファンは広がっている。2005年にはエアギター組織が設立され、世界選手権でも第4位を獲得した。それ以来、日本ではこれまでになかったエアギター熱が高まり、テレビ局ではエアギター競技の番組が制作された。テレビでの競技には誰でも参加でき、前週の勝利者と対決する。優秀なパフォーマーは大きな注目を集め、自身のファンやエアギターファンをたくさん作り出すことになる。
 
エアギタリストのパフォーマンスには大げさなボディランゲージが必要であるためか、日本のエアギター演奏者には女性が少なく、わずか10%である。だがその10%の中に、名前をよく知られた女性が一人いる。ある玩具メーカーの若いOLであり、日本のトップレベルのエアギタリストである彼女の名前はMAYである。

MAYは青森県出身で、本名は工藤芽生(くどう・めい)という。今年26歳である。2006年4月にある大手玩具メーカーに入社し、企業広報課に配属された。そして、商品の広報活動の一環としてエアギター大会に参加することになった。もともと音楽に対する感性が高く、それに長年の舞台劇の経験が加わって、MAYはエアギター大会で他を圧倒し、異彩を放つパフォーマンスを行った。

2007年7月に初めて参戦したときに、東京地区の最終予選での準優勝と「NIKEエアー賞」を受賞。8月に開催されたJAPAN FINALでは、唯一の女性ファイナリストとして第8位の好成績を残した。また、同年11月に開催された「ロックの学園」エアギター大会でも準優勝を獲得した。

MAYがエアギターを始めてから、行く先々で彼女のパフォーマンスが大きな注目を集めた。韓国での商品発売記念講演、国土交通省主催:ビジット・ジャパン・キャンペーン「Yokoso!Japan」記念イベントの時の原宿キデイランド店頭でのパフォーマンス、ONEKOREA FESTIVSALのステージなどに出演し、2008年のJAPAN FINALの第一回予選では、Sony Music所属アーティスト「北出菜奈」の協力を得て、ニューシングル「PUNK&BABYs」を用いて優勝し、続く8月のJAPAN FINALで準優勝を果たした。北出菜奈の「PUNK&BABYs」初回限定版には、MAYのパフォーマンスのDVDが収録されている。

三年目に入り、MAYの名前は業界では知らない人がいないほどになった。中国の広州のオリエンタルリゾートホテルでも、今年2月にMAYのパフォーマンスが行われた。8月に3回目のJAPAN FINALに参加したMAYは、周囲の期待に応えて優勝した。これは、日本女性がエアギター大会で得た初めての優勝であった。

Q.もともと楽器は弾けるのですか?
A.楽器はピアノしかやったことがなく、ギターやロックはよく知りませんでした。演劇やラテンダンスのサルサをやっていて、そこで学んだリズム感や表現力が、今の「エアギター」のパフォーマンスに役立っていると思います。

Q.どうやって「エアギター」を練習しましたか?
A.最初はエアギターの教則本を読んだり、付属のDVDを繰り返し見たりしました。それから、マーティ?フリードマンのライブを見たり、本物のギターに触ったりしました。

Q.エアギター大会の規則はどうなっていますか?
A.パフォーマンスは一人1分間です。採点は6点満点で、オリジナリティ、リズム感、カリスマ性、テクニック、エアネス(芸術性とエアー感)の五つの要素で採点されます。

Q.ライバルはいますか?
A.最大のライバルは自分です。大会では男性が多いので、彼らに対抗するために、パフォーマンスで女性ならではの魅力で全く新しいエアギターを創り出したいです。サルサを取り入れることによってセクシーさを加えていますが、セクシーさだけでは観客に反感を買うので、元気いっぱいのパフォーマンスや動きは不可欠ですね。

Q.かなりハードに見えますが。
A.1分のパフォーマンスでとてもたくさんのエネルギーを消耗しますから、激しいスポーツ競技と同じようなものかもしれません。

Q.生活の中でのエアギターの位置づけは?
A.自己表現の一つの形式です。最初は会社の製品を宣伝するために始めましたが、今は私に楽しみを与えてくれるものになっています。

Q.エアギターの魅力とは?
A.なりきれることです。真似は誰でもできますが、極めるのは難しいです。パフォーマンスをしている時に、観客に本当にギターが見えるようにできれば成功なのですが、それにはたくさんの練習が必要です。

丸顔で、人形のような輝く瞳を持ち、笑顔がとても可愛らしい彼女と、ハードでエネルギー溢れるロックミュージックとを結びつけるのは難しい。だが、ひとたびコスチュームを身につけ、「エアギター」をかついで舞台に登場すると、MAYはまるで別人になったように、舞台の上で情熱的に飛んだり跳ねたりして巧みに「エアギター」をかき鳴らし、まるでロックスターのようである。素人は楽しく鑑賞し、プロは細かい芸を楽しむ。MAYのパフォーマンスは観客の情熱をかきたてるだけでなく、一つ一つの音符もいい加減にしない細かい指の動きが、専門家の高い評価を受けているのである。
 
「やるなら徹底的にやりたい。中途半端は恥ずかしい。」とMAYは言う。彼女がこのように全身全霊でパフォーマンスを行えるのも、長い間の努力の結果なのである。彼女は小学生の頃、アナウンサーだった父親の熱心な仕事ぶりを尊敬していた。また、心の中には「ステージに立ってパフォーマンスで自分を表現したい」という気持ちが生まれていた。こうした夢によって、自然に舞台劇の世界に入り、小学校から高校までずっと演劇部で活躍していた。
 
彼女が最も忘れがたいのは、高校二年生の時、病気のために視力も聴力も失ったアメリカの身障者教育家ヘレン・ケラーを演じたときのことである。ヘレンをよりリアルに演じるために、彼女はわざと舞台装置にぶつかる演技をした。この時のMAYの演技は高い評価を受け、体中にできたあざが、MAYの演技に対する努力の大きさを証明していた。だが、表現について厳しい父親は、MAYの演技をほめたことがない。「父はいつも、もっと上があると教えてくれているのです。父のこの教育のおかげで、もっと努力して父が認めてくれるところまで行きたいという気持ちになれるのです。」

「もともとは、今年のエアギター世界選手権に参加して、優勝したら静かに引退するつもりでした。それが、長年支持し、励ましてくれた友人たちへの恩返しだと思ったのです。」故郷の人々の期待を背に優勝しようとがんばったMAYだが、13ヶ国21名の選手たちの中で11位となった時は、ショックで声も出なかった。この時、今年の優勝者(フランス人)と、そこにいた1万人の国籍もわからないたくさんの観客たちが彼女の方に両手を差し伸べて叫んだ。「Enjoy Air Guitar!」彼らの真剣な瞳には、苦難を乗り越えるためのメッセージが込められていた。「順位はどうでもいい。大切なのは楽しむこと!」

涙をぬぐって顔を上げたとき、MAYの美しい顔には再び自信いっぱいの微笑が浮かんでいた。「私はようやく気づいたのです。ゴールは、自分で自分に与えられるものではないということを。」MAYの心の視野は世界に広がり、人類全体に広がっていく。これからの旅の中で、我々はさらに強くなったMAYに出会うだろう。手に持った無形のギターをかき鳴らし、振り回しながら、さらに輝く人生を謳歌するMAYに……。(取材協力:山本朱美)

関連情報1:かながわIQがMAYを語る

エアギタージャパンのかながわIQ会長が、お忙しい中、「東京流行通訊」のインタビューに応じてくださった。彼は、これまで日本のエアギター界は男性の天下だったので、「ミス・エアギター?ジャパン」を売り出すという夢はなかなか実現しなかったが、MAYの出現によって世界のエアギターの世界に新鮮な「アジアンビューティー」の風を吹き込むことができるだろうと、ユーモラスな口調で語った。「今年のエアギター世界選手権に参加した女性は二人だけで、その国のチャンピオンとして参加したのはMAYだけでした。いろいろな事情で優勝はできなかったけれど、近い将来MAYは必ず世界の頂点に立つでしょう。」


関連情報2:斬新な「エアギター」玩具

タカラトミー社は2524円の「エアギターPRO」を発売し、わずか二週間で2万個を売り上げた。「エアギターPRO」はギターのネック部分のみで、ギターのコード音(A〜G)を選択する7つのボタンがあり、ネック側面には変調ボタンが4つ(マイナー、セブン、シャープ、フラット)が付いている。本体から、本来弦がある部分に向かって赤外線が放射されており、ギターを弾くような感じで赤外線を遮れば、「見えない弦」が内蔵のスピーカーを通じて音を出す。赤外線センサの他、傾斜センサも設置され、本体を傾斜させることで音色が変化するディストーション効果も楽しめる。


MAYのプロフィール

2002年3月 東京都立日比谷高校卒業
2002年4月 清泉女子大学 英語英文学科入学
2004年〜2005年 イギリスのロンドン大学に留学(演劇、映画、メディア論などを履修)
2006年3月 清泉女子大学卒業
2006年4月 大手玩具メーカーに入社、企業広報課勤務


エアギタージャパン http://airguitar.jp/news/
  MAYのブログ・「Petit MAY ☆」 http://ameblo.jp/mayjune15/
 
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