映画「ノルウェイの森」が、12月11日から日本全国で劇場公開されている。原作は、1987年に刊行された村上春樹氏の同名小説で、これまで世界36カ国で翻訳され、中国でも100万部以上発行されるほどの世界的ベストセラーとして知られている。自殺してしまった親友の恋人だった「直子」と、大学の友人「小林緑」との間で揺れ動く主人公ワタナベの切なくも美しい恋愛物語である。刊行から23年を経てようやく、ベトナム出身でフランス在住の監督トラン・アン・ユン氏が、困難と言われたその映像化を実現させた。
ところで、この物語の中には村上氏の実際の経験が元となっていると思われる記述がいくつかあるのをご存知だろうか。今回は村上氏が学生時代を過ごした、物語の舞台のモデルとしても知られている場所をご紹介しよう。
村上氏は19歳の時、大学進学のために上京した。物語の中で主人公ワタナベと緑が通っていた大学のモデルとなったのは、村上氏自身が実際に通っていた早稲田大学である。映画「ノルウェイの森」でも、同大学の西早稲田キャンパスや、そこから歩いて数分の場所にあり、村上氏が在籍していた文学部の戸山キャンパスなどがロケ地として使われており、より原作のイメージに忠実になっている。また、緑とワタナベが、明るい光と緑に包まれながら会話を弾ませる場面は、西早稲田キャンパス向かいの大隈庭園で撮影されている。
西早稲田キャンパスの正門と同大学のシンボルともなっている大隈講堂の間を抜け10分ほど歩き、神田川を渡ると、そこには一本の古びた細い坂道がある。「胸突坂」と呼ばれるその急な坂を上りきった場所にひっそりと居を構えるのが、ワタナベや永沢、突撃隊らが住んでいた寮のモデルで、村上氏も大学入学当初から半年ほど住んでいた学生寮「和敬塾」である。この伝統ある寮には450名ほどの男子大学生、大学院生が居住しており、残念ながら村上氏が住んでいた西寮は老朽化によって取り壊されてしまっているが、今も当時と変わらない寮生活が営まれているという。
ご紹介した中には無許可では入れない場所もあるが、村上春樹の小説を愛する「ハルキスト」であれば、是非半日ほどの散歩コースとして、「ノルウェイの森」縁の地を訪ねてみてはいかがだろうか。(香雪執筆)