日蓮宗の「100日の荒行」は、毎年11月1日から翌年の2月10日まで千葉県の寺で行なわれる、全国的に有名な三大荒行の一つで、常人には想像もできないぐらい厳しい修行である。毎日わずか2時間の睡眠時間で、1日2回の食事は梅干と白粥だけ、朝夕の木釼相承の修行は寒風の中で行なわれ、手足のひびやあかぎれから血がにじむ。肉体的にも精神的にも鍛えられる修行だが、過去には体力不足により命を失う僧侶もいたという。100日間の修行を耐え抜いた僧は修法師(しゅほっし)となり、住職になると同時に祈祷を行うことができる。若手映画監督、佐々木誠さんは、この荒行を題材にドキュメンタリー映画を撮り、4年前に上映を行なった。
この『Fragment』というドキュメンタリー映画を撮影したきっかけとなったのは「9.11」だった。突然、佐々木監督が当時準備中だったライブパフォーマンスの映像の仕事がキャンセルされた。その頃、友人であり俳優の井上実直さんに祈祷師としてニューヨークの世界貿易センタービルの跡地で祈祷を行いたいという話を聞き、井上さんの行動をビデオカメラで追うことに決めたのである。
『Fragment』を見た人々は、それぞれまったく異なった解釈をする。それは主人公に共感するのが難しいからかもしれない。佐々木監督は、ドキュメンタリーでは作り手のスタイルによってひとつの事実が異なる伝わり方をするが、自分には映像によって何かを伝えようという気持ちはなく、ただ事実をフィルムによって残しておきたいだけで、すべての人が共感するというのはかえっておかしいと言う。このような独特の見解が、『Fragment』という素晴らしいドキュメンタリー映画の価値を証明しているのかもしれない。
佐々木誠監督は、1975年生まれ。1998年からソニーミュージック・エンタテインメントで数多くのアーティストのプロモーション用ビデオを撮影。その後フリーディレクターとなり、多くの音楽PVおよびテレビ番組の製作を行なった。『Fragment』は初監督のドキュメンタリー映画で、アメリカ、ドイツなども含め、3年以上のロングランを続けている。2007年には『マイノリティとセックスに関する2、3の事例』を、オムニバス映画『裸over8』の一部として公開。公開後、雑誌『映画芸術』の2007年ベストでランキング入りした。これは短編映画としては、非常に珍しいことである。(緋梨執筆)
9.11以後の世界×障害者の性
「ドキュメンタリー映画とは何か?−佐々木誠監督作品映画上映」
日時:6月19日(土)14時スタート(入場無料)
場所:法政大学市ヶ谷キャンパス外濠校舎6階「薩ホール」