「痛車(いたしゃ)」という言葉を知らない人にとって「痛」と「車」という文字の組み合わせの意味を推測することは難しいことだろう。「痛車」とは、漫画、アニメ、キャラクター、あるいはメーカーのロゴなどの大きなステッカーを貼り付けた車、もしくはそれらが直接スプレーで描かれるなどした車のことであり、別名「萌車」とも呼ばれる。オタクの聖地、秋葉原であっても、「痛車」に乗ってドライブしたら、きっと多くの人が振り返るであろう。おそらく最も「痛い」ことは、隠すことも全くせずに、世間に向かって自分がオタクであることを宣言するという行動であるかもしれない。
日本のオタク人口について正確な統計を取る方法はないが、愛車を「痛車」に改造する程、勇気のある人は非常に少ないと思われる。彼らは普段、仲間以外には白い目で見られ、大きな賞賛を受けることは想像しがたい。ところが3月21日に開催された「萌博2010」では、「痛車族」たちが集結し、何と300台もの「痛車」の参加があった。自動車以外にも、自転車の「痛チャリ」、バイクの「痛単車(いたんしゃ)」などが、この栄えある舞台に登場した。
「痛車」マニアたちの投票により選ばれた最高の「痛車」は、アニメ「プリキュア」のついたワゴンRであった。一般人から見ると、どの「痛車」もかなりすごいのだが、マニアの目から見ると大きな差があるらしい。「このステッカーは貼り方がすごい」とか「このデザインは素晴らしい」など、一般人では気がつかないようなところに優劣の差があるようなのだ。「“痛い”文化はとどまるところを知りません。自転車やバイクも、何でも痛車にすれば当たるんじゃないか、という傾向があります。アキバ文化だけは、不景気の影響を受けないで進化し続けているのかもしれません。」と、このイベントを主催したOUTLIVEの代表取締役 成尾浩さんは語った。
アニメキャラクターの色彩が強い改装車の通称が「痛車」だが、車の中に完璧なオーディオ設備を取り付けたり、エンジンを改造して馬力を強くしたりするなど、持ち主の好みによって「痛車」の種類も様々である。ステッカーを貼るだけで、小型車では制作費が5万×10万円、ワンボックスカーなら20万円近くかかる。「痛車」に入れ込んでいる彼らにとって、この金額が「痛い」かどうかは、本人たちにしかわからない。(緋梨執筆)