日本を代表する版画家と写真家の企画展「浜口陽三・植田正治2人展―夢の向こうがわ」が、東京都日本橋にある美術館「ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション」で9月26日まで開催されている。
植田正治(1913-2000)は、生涯故郷の鳥取県で創作を続けた写真家。完璧な構図のもとに撮影されたモノクロ写真は、不思議な懐かしさと爽やかさを併せ持ち、そのスタイルは「ueda-cho」として、今も色褪せることなく世界中の写真家に影響を与え続けている。一方、浜口陽三(1909-2000)は、日本の大手醤油メーカー、ヤマサ醤油の先々代社長の三男として生まれたが、家業を離れ、パリ、サンフランシスコなどを主な拠点として芸術活動を行った版画家。特に、過去の技術として忘れ去られていた銅版画のカラーメゾチント技法を復活させ、独自の芸術表現を確立したことで知られている。高度な技術から生まれる繊細で静謐な作風は、他の追随を許さず、多くの国際美術展等で高い評価を得た。
銅版画と写真は、制作方法がまったく異なる。気の遠くなるような時間をかけて少しずつ金属を刻んでゆく浜口の銅版画と、世界が自己のイメージに引き寄せられた瞬間を捉え、プリントの工程において作品性を打ち出してゆく植田の写真。だが、両者の作品には綿密に計算された構図の美しさと、観るものに時を忘れさせる普遍性がある。また、名声にすがることなく、生涯新しいテーマに挑み続けた点も共通している。それぞれの分野において20世紀を先導してきた巨匠たちの作品を比較すれば、きっと新しい発見があるだろう。
同館では、企画展のほか、定期的に銅版画教室や講演会なども行っている。また併設されたカフェでは、醤油アイスなど、ヤマサ醤油に縁ある同館ならではの限定商品を味わうこともできる。近隣には日本橋、人形町といった江戸の面影残る町並みが広がっているので、芸術鑑賞の後は散策に出かけてみるのもよいだろう。(林愛香執筆)
【浜口陽三・植田正治2人展―夢の向こうがわ】(9月26日まで)
場所¨ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション 時間¨11:00×17:00(最終入館16:30。土日祝は10:00開館。)
入館料¨大人600円 大学・高校生400円 中・小学生200円 休館日¨月曜日(7/19、9/20は開館)、7/20、9/21、夏期休館(8/9×8/23)
※ 9/11(土)は講演会の為、13¨00以降は展示が見られません。