与勇輝(ATAE Yuki)さんの世界
横浜高島屋で「与勇輝 人形芸術の世界」をみた。散歩と買い物のついでにふらりと入ったら惹きつけられた。
日本人独特のアーモンドアイ、果物のようなチョンととがった唇。木綿の布の顔や手足。丁寧に作られた着物や小物、桶や箒・裁縫道具やたんす、はたまた携帯電話などの小道具まで。多くは20cmほどの人形だが丹精こめて製作されたのがよくわかる。そのためずっと見ていて飽きない。不思議なことに人形そのものにこめられた魂や歴史などより、作り手の手の温もりと愛情が見えてくる。この作者は与勇輝氏、昭和12年(1937年)9月生まれの69歳である。
作品の多くは小学生くらいの子供たち。友だちと遊んだり、家のお手伝いをしたり、兄弟の面倒をみて幼い弟をおんぶしたりしている。作者によると、無心な子供たちが美しい自然の中で素直に生きる様を表現したかったとのこと。最近は携帯を手にした少女をモデルにしたものも多い。渋谷などの街にたくさんいそうな10代の少女の服装は風俗画ならぬ風俗芸術としてみることも出来る。また、晩春、麦秋、東京物語など小津安二郎監督の映画の原節子をモデルにした人形もある。小津監督と与勇輝氏の感性は似ているのかもしれない、と思った。
布という素材の持つ温かさと、作品に彩りを添える小物へのこだわりが、愛玩用の人形という範疇を超えている。与氏の言葉でいうと、「人形ではなく、布を用いた塑像」だそうだ。支えも無いのに安定して立っているのも興味をひいた。「人形が立つのは人間と同じ」というが、造形の極意とみた。 (西岡珠実執筆) |