瀬戸内海の芸術島
潮風を浴びながら、小道をそぞろ歩く。大小無数の穴があけられた壁、砂に埋まった船のへさきや桟橋の端、丸くて黄色い「かぼちゃ」などが次々に視界に入る。広い空と真っ青な海を背景にした現代芸術が、圧倒的な存在感を見せている。
瀬戸内海に浮かぶ美しい島――直島。 1992 年、島の南端に芸術の家「ベネッセハウス」がオープンして以来、世界各地からやって来た芸術家たちが島の風景全体や島内の各所を背景として、思索と想像に溢れたモダンアートを制作してきた。特に去年の夏は、全島にわたって芸術活動が繰り広げられ、「ベネッセハウス」、「地中美術館」、「家プロジェクト」などの施設で、芸術への旅と今までにない体験が、旅行者に深い感動を与えている。
遠く瀬戸内海が眺められる丘、木々の間に見え隠れするコンクリートの外壁、「ベネッセハウス」の大部分は地中に隠されており、薄暗い通路を進むと、洞窟のような円形の部屋と柔らかな陽光に包まれた主展示室に出る。青い空と海、そして緑の樹木が、開かれた窓からはっきりと見える。松本博司が 10 年をかけて世界各地で撮影した 14 枚の海の写真は、現実と虚構を一体にして見せている。
「地中美術館」は建築の巨匠、安藤忠雄の作品で、この芸術空間は自然環境を損なわないようにするために、すべて地下に作られている。地中の庭園には睡蓮や柳が茂り、たいへん感動的だ。「クロード・モネ室」には、幅 6 メートル高さ 2 メートルの「睡蓮」など 5 点の作品があり、印象派巨匠の崇高な芸術的境地を味わうことができる。
本村地区は、かつて大いに栄えた小さな村であり、塗りの剥げ落ちた土塀や黒い杉板の外壁が見られる。この歴史的な舞台は「家プロジェクト」によって新しい活力を吹き込まれた。例えば、外観は古めかしいある民家の内部には、水中にデジタル数字が点灯し、 200 年の時空を超えた創造の世界が、存在の意義を問いかけているかのようだ(宮島達男の作品)。
直島の人々は芸術の薫陶を受け、旅行者に常に温かい心遣いを見せてくれる。そしてその素朴な土地柄こそが、芸術の舞台としての魅力となっている。それは、過去の生活に向かい合いながら、自然と一体に溶け合い、一方では直島に根を張るモダンアートの舞台でもあるという魅力なのである。 (四本百合香提供) |