水彩と油絵の間に
東京と京都で藤田嗣治が開かれている。フランスで成功した日本人画家の筆頭ともいえる藤田は、その技法においても奇行においても独自性が際立っていたようだ。
藤田の「すばらしい乳白色」も「墨を使った黒」も、本当のところはどうやって作ったのか解明されていない。墨は水性で油絵の具の下地にのせるとはじいてしまう筈だが、それをニスで抑えたという。筆で一気に描かれた藤田独特の美しい輪郭の細い黒線を瞬時に定着させるには、と考えると不思議でしかたがない。
自画像に見られるこけしの様な前髪ぱっつん、丸眼鏡、志村けんの「へんなおじさん」そっくりのちょび髭、それにピアス。あの時代のフランスではさぞ異形だったと思われるが、おかしなもの、滑稽なもののほうが却って警戒されないと言う狙いだったのかも知れない。
藤田は当時の画家たちと交流し、それによって様々な影響を受けた絵を残した。モディリアーニ風の細長いシルエットの人物、マティスの装飾的カーテンや室内描写、ギュスタヴ・モローを思わせる女性の衣装の装飾など。フランスで名声を手に入れた後、南米を旅行し、日本での戦争の暗い時代を経て、再びフランスへ渡った彼はもう二度と祖国へ戻らなかった。1955年にフランスに帰化し、1959年にカトリックの洗礼を受けた後は、Leonard FOUJITA として生き、1968年チューリッヒで没。「一つのことに静かに専念して、ゆっくりかかって勉強する、仕上げる―これの出来るのもパリですね。パリだけですね。」という言葉を残して。 (西岡珠実執筆) |