全盲カメラマンの奇跡
67歳の伊藤邦明さんは、日本でただ一人150回以上も写真展を開いた全盲カメラマンである。
伊藤さんは50歳のとき、仕事の作業中に20メートルの高さ(ビルの7階に相当)から転落し、3ヶ月の必死の看護の結果、奇跡的に意識を取り戻したが、最も大切だった視覚と嗅覚を失ってしまった。命が助かった嬉しさの後で、彼はたちまち恐怖と不安に陥った。「何も見えなくて、どうやって生活したらいいのか?」
4年後、伊藤さんと妻の七重さんは、84日間をかけて15ヶ国を巡る世界一周旅行に出発した。旅に出る前、子どもの頃からカメラが好きだった彼にカメラマン仲間の一人が20本のフィルムを贈った。そこで、伊藤さんは旅の間に1000枚近くの写真を撮り、帰国後に旅行写真展を開催し、写真集「風と音の詩」を出版した。
全盲者の撮影は、一般人には想像するのが難しい。伊藤さんの妻は、家事や日常生活の介助をする他、写真撮影でも一生懸命伊藤さんの補助をする。彼女は被写体の人や物、風景などの前に立って、目に映るすべてのものを説明するのだ。彼女が描写する情景、人物、タイミングなどによって、伊藤さんは一枚一枚心をこめてシャッターを切る。
全盲のカメラマンの旅行写真展は日本全国80ヵ所で行われ、8万人あまりの人々を感動させた。また、8つの国の9つの会場でも展覧会が行われた。
写真展を訪れたある老婦人は、伊藤さんの手を取って涙に声をつまらせた。彼女の夫は写真が好きだったが、糖尿病で失明してから写真をあきらめるしかなかったのだ。夫はすでに世を去っている。「ありがとうございます。あなたが夫の代わりに写真展を開いて下さったのね!」
全盲の写真家、伊藤邦明さんは、強靭な意志を持って撮影を続けている。それが彼の生きがいであり信念なのである。
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