西川美和と「ゆれる」
7月8日。心を打つ新作映画の上映が日本各地で始まった。そのタイトルは「ゆれる」。驚くべきことは、この映画の監督がまだ32歳の女性であることだ。
故郷を遠く離れて東京でカメラマンとして成功している弟の猛が、母親の一周忌に久々に里帰りし、田舎町で父とガソリンスタンドを経営するまじめな兄の稔に再会する。翌日、兄弟はガソリンスタンドで働く幼なじみの智恵子を誘って近くの渓谷に出かける。そこで智恵子は吊り橋から足を滑らせて死んでしまう。その時、その場にいたのは稔だけだった。これは事故なのか?それとも事件なのか?やがて裁判が始まり、稔は今までになかった意外な一面を見せ始める。一方すべてを目撃してきた猛の内面も激しく動揺し始める。
個性がまったく違う二人の兄弟は、それぞれの心に嘘と真実、嫉妬と羨望を抱えている。いずれにしても、もし事件が発生しなかったら、兄弟の関係は一生変化しなかったかもしれない。鋭さと曖昧さ、荒さと細やかさ……、すべての会話、すべての表情が、細かく計算されているようでもあり、自然に流れていくようでもある。「ゆれる」を見た者は、心を強く揺さぶられる。
西川美和監督はこの映画を撮った意図について、こう語る。「描こうとしたものは兄弟という、血のつながりだけで結ばれた2人の関係性の希薄さ、危うさ。そして、その先にある可能性です。私の希望は人間と人間のつながりに希望を見つけることです。」「ゆれる」の上映時間は119分。最後の数分間に、ようやく答が見出される。人の心も、人と人との関係も揺れ動いて不安定であり、人と家庭の関係はさらに不安定である。それはまるで、渓谷にかかる壊れかけた古い吊り橋のように、絶え間なくゆれている。
【西川美和プロフィール】1974年、広島県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。2002年、初めての監督作「蛇イチゴ」で第58回毎日映画コンクール脚本賞、およびその年度の数々の国内映画賞の新人賞を獲得する。2003年、テレビ作品「いま裸にしたい男たち」で第20回ATP賞のドキュメンタリー部門優秀賞を受賞する。 |