幸福を演じる独身女性
24 時間営業のコンビニ。さとこ( 30 歳)は大好きなプリンを手に取りながら、視野の隅でカウンターの男性店員を見ている。知り合いではないけれど、ここに来ると彼がいつもあそこに立っている。今日は週末の夜。一人で、突然プリンが食べたくなって買いに来た。さとこは手に持ったプリンを見ながらしばらく考え、さらにもう一つ手に取った。そして、二つのプリンを持って堂々とレジにお金を払いに行った。この二個目のプリンは、「私は一人じゃないのよ。」と店員に示すためのものなのである。
ピザの宅配を頼むとき、一人なのだから「中」で十分なのに、わざわざ 3 〜 4 人でなければ食べきれない「大」を頼んでしまう。宅配が届くと、わざとテレビの音量を大きくし、スニーカーなどを玄関先に並べ、「私は一人じゃないのよ。」という雰囲気を作る。
東京では、今このような自作自演をして「幸福」を演じる女性が少なくない。他人はそんなことには興味がないとわかっていても、心の中では週末に一人なのが寂しく感じられ、そのように見られるのがどうしてもいやで、わざわざこんな演出をして自分を「騙して」しまうのだ。
数年前には、一人で高級レストランで優雅にグルメを楽しんだり、一人で気軽に海外旅行にでかけたりする女性は、「かっこいい女性」としてもてはやされたものだ。しかし、今は一人ぼっちであることを隠し、頭を絞って自作自演する女性が増加している。
半年前のある晩、北原さん( 34 歳)は深夜に寝付けず、六本木のオールナイトの映画館に気晴らしに行った。ところがなんと周囲は恋人同士ばかりで、自分だけが一人だったので、彼女の気持ちはますます落ち込んでしまった。また先日、有名な「はとバス」が独身女性のために、箱根一日コースなどの旅行プランを作ったが、予想していた人数の半分も集まらず中止になった。
精神科医の香山さんは言う。「一人でいるのを不安に感じ、自分の生活状態に対する他人の反応が気になる。これはもともと、自信がないからなんです。流行もどうでもいいし、他人がなんと思うかもどうでもいい。自分に一番ぴったりくることを選んでやればいいんです。日本の女性は、真の意味で自立していないのかもしれませんね。」(本文は週刊誌「 AERA 」の関連記事を元にリライトした。) |