不思議な「パンの椅子」
10月27日から11月5日まで、東京六本木のAXISギャラリーで「吉岡徳仁展」が開催され、今年4月にミラノで話題を呼んだ「PANE chair」が展示されている。
医療用の直径0.5mmの繊維を長さ120cm、幅90cm、高さ80cmの半円柱形に巻き、布で包んで紙の円筒容器に入れ、104℃の窯で焼き上げて椅子にする。焼くときに微調整すると椅子の形状を膨張させることができ、まるで本物のパンのようである。
「PANE」はイタリア語で「パン」という意味であり、「PANE chair」は建築デザイナー、吉岡徳仁氏の斬新なアイデアの結晶である。3年間、研究と思考錯誤を繰り返した結果、ついに繊維の可能性に対する新しい試みと、未来への構想においてすばらしい結論を出すことができたのだ。
乳白色で円形の外観、ふわふわとした感触、誰でもそこに坐るとたちまちゆったりした表情に変わる。「PANE chair」は椅子の新しい世界を開き、大きな注目を浴びている。パリのポンピドーセンターでは、正式にこの作品を永久収蔵品とすることを決定した。
試しにこの不思議なパンの椅子に坐ってみたところ、うまい具合に体のバランスがとれ、右にも左にも偏らないし、仰向けに倒れることもない。椅子に坐っているというより、巨大なクッションに身を任せて心穏やかな気持ちにさせられるという感触である。椅子に沈んだ体が、椅子、というよりパンと溶け合って一体になるような気分だ。まるでパンに塗ったジャムのように、うっとりととろけてしまいそうである……。(大村鉄夫提供) |