丸の内に現れた牛たち
牛!牛!!牛!!!
爽やかな秋の日。東京駅近くの丸の内は、もともと高いビルの林立するオフィス街である。ところが、9月1日から10月1日の間、突如としてとりどりの色彩と模様にいろどられた牛のオブジェが出現した。普段のまじめくさった丸の内の面影を一新する思いがけないその強烈な印象は、人々に日常を忘れさせるようなインパクトを与えた。
この世界最大のパブリックアートイベント「Cow Parade」(カウ・パレード)は、1998年にスイスで始まった。地元のアーティストがグラスファイバー製の実物大の牛400頭にペイントを施し、街中に展示して大反響を巻き起こし、翌年の夏にはシカゴでも開催された。その後ニューヨークでも行われ、著名アーティスト、一般市民、子供たちがこのイベントに参加し、牛たちをオークションにかけて得られた売り上げは教育福祉団体に寄付された。それ以来「Cow Parade」は世界各国の注目を浴び、あっという間にロンドン、パリなどに拡大し、2006年にはアメリカ、イギリスを初めとする全世界6ヶ国、8都市でそれぞれイベントが開催された。
日本では2003年にも開催されたが、今年は60名のアーティストと千代田区の二つの中学校、および一般参加者2名により、10社のスポンサー企業の協力の下で、65頭の牛が製作された。牛のオブジェは体長2メートル13センチ、幅61センチで、形は様々であり、体にいろいろな色でいろいろな図案が描かれている。今年のイベントには、若いアーティストを育成するという目的もある。審査員を担当した「Casa BRUTUS」の編集長、吉家千絵子さんは、「散歩の途中で牛に出会って、ハッピーに感じるかどうか」を審査基準にしたとのことだ。
丸の内、大手町、有楽町……店舗の中、大通りの脇、ビルの下……、いつもは「仕事」の雰囲気一色のこうした場所が、「Cow Parade」によって「ハッピーに感じる」アート空間に変化する。東京の一番の中心である丸の内の秋は、カラフルな牛たちによって新しい活力を与えられているようだった。
|