若冲と江戸絵画展
上野の東京国立博物館・平成館で、カリフォルニアのプライスコレクション(The Etsuko and Joe Price Collection)による江戸期の日本画の展覧会が開かれている。若冲にスポットを当てて、通常の日本画展とは異なる雰囲気を作っていた。2003年の12月から翌2004年1月にかけ、パリの資生堂で展示された(株)TeamLaboの「若冲幻想」というプラズマディスプレイの展示で、若冲は一気に若い世代の注目を集めたのだ。
今日のIT文化の先端をいくデジタルアートの世界で人気再燃の伊藤若冲(1716〜1800年)は変わり者だったようだ。京都の青物問屋の跡取り息子として生まれたが、商売には興味が無く、酒も飲まず女嫌いで生涯独身だった。当事の日本画の正統といわれる狩野派円山応挙に師事して多くの花鳥画を残したが、その画風は写実とは程遠い。デフォルメ、省略によって、現在いうところのデザインという表現がピタリとくる。
色は極彩色でディテールにこだわり、例えば鳥の羽の微妙な色の混合は徹底的に目を疑うような細かな筆致で描いたかと思うと、廻りの木の葉は筆の跡や滲み、濃淡の全く無いマットな一色で塗られていたりする。その部分は妙な質感を生み、墨の色が個性を主張している。
また、屏風を4万3千個のます目に分割したます目描の鳥獣花木図屏風は特にエキセントリックで、細かなます目を極彩色の絵の具で埋めることにより全体としてモザイクのような絵画を構築している。江戸時代の日本画でこのような手法が試みられていたことに驚く。鶏や動物の目は独特で、現代のアニメのような不思議な表情がある。動物の配置や姿態、構図は奇想天外に展開され、若冲の自由なイマジネーションに魅了される。時空を超えた想像の世界に迷い込んでしまったような気分になった。(西岡珠実執筆) |