暑い夏の日には、クーラーのきいた部屋でアイスクリームというのも悪くないけれど、涼しさいっぱいの絵画展に出かけるという選択もなかなかいいものだ。8月6日から12日までNHKのギャラリーで行われた「夏色。」展は、五人の人気女性イラストレータによる個性的な展覧会である。展示作品は、画面構成も配色もたいへん魅力的で、涼しくて爽やかな気分をかもし出していた。

●ミヤモトヨシコ
　会場に入るとまず目に入るのは、淡い色で描かれた巨大な画面である。これは彼女が初めて試みた「夏色」のイラストだ。ラインと色の境界がぼかされて、ロマンチックで優雅な雰囲気がにじみ出ている。描かれた女性の黒くて大きな瞳の魅惑的なまなざしとファッション雑誌から抜け出してきたような姿に、思わず見とれてしまう。

●久保田ミホ
はっきりした輪郭と、黒い服を身にまとった美女のイメージは鮮烈で、「クール」な印象を受ける。黒を多用していても重苦しい感じはなく、かえって黒のストライプが今年流行のマリンスタイルを連想させる。黒を使用したために、背景の中間色が効果的に浮き上がっている。

●sioux
本メルマガでも以前紹介したイラストレータである。赤を基調とした「夏色」は、作者の新たな飛躍となっている。今までの暗い色を避けて「明るいブルー」に挑戦しているが、siouxのセクシーな華やかさは失われていない。コンピュータグラフィック氾濫の時代に、すべてを手描きで仕上げることにこだわっている。

●aki
彼女の描く絵はすべて、楚々として可愛らしいイメージの女の子である。明るい切れ長の目に現代女性の内面の強さが表れており、女性たちの人気を集めている。現在、akiの作品の多くは、女性向けのホームページや雑誌、書籍、広告などに使用されている。

●naks
彼女の作品の前に立つと、誰でもにっこり微笑んでしまう。動物の立場から描かれた「夏色」は、可愛いだけでなくなかなかスマートである。手描きされた作品のタイトルも趣があり、最後には「。」がつけられている。作品を見ていると、リラックスした気分になれる。（謝晨執筆）

「夏色。」展公式サイト　http://natsuiro86.exblog.jp/

コンピュータ部品の再生

「e−Waste」という言葉をご存知だろうか？「e−Waste」とは、コンピュータや携帯などの「電気製品廃棄物」のことである。今世界では、「e−Waste環境保護」がブームになっており、廃棄物を単純に焼却したり埋立てに使ったりせず、何とか再利用しようという動きが起こっている。「SECCO」は、コンピュータや電気製品の工業廃棄物を再生して、魅力溢れる製品にデザインしようという、フィンランドに生まれた企業である。「SECCO」の日本語ネットショップが先ごろ開店し、そのユニークな商品が人気を集めている。

●携帯ストラップ
廃棄されたキーボードを使って作られ、「QWERTY phone strap」という名前で、廃棄された携帯電話のボッタンを使って作られ、「HANDY phone strap」という名前を付けられた携帯ストラップである。その理念と構想はもちろん、素敵な名前にも大いに惹きつけられる。

●ワードマグネット
廃棄されたキーボードにマグネットを付け、5ピースで一つの単語になっている。中古パーツを使っているので、キーの色やフォントはそれぞれ異なっていて面白みがある。「SMILE」「LOVEU」「HELLO」「HAPPY」などがある。これらによって、是非自分自身の物語を作り出してほしい。

●基板の装飾品
廃棄されたコンピュータの回路盤をトカゲや亀などの形に加工したもので、インテリアに使えばとてもおしゃれである。基盤シートのパターンや形状などはそれぞれ異なっていて、どれも「世界でたった一つ」の製品だ。

●ノートの表紙
廃棄されたキーボードの基盤フィルムを表紙に使った「QWERTYリングノート」である。表紙はポケットになっていて、レシートや名刺を入れておくことができる。色はグリーンとシルバー／ブラックの二種類があって、自由に選択できる。

「妖怪電車」にびっくり

本メルマガで前回「おもちゃ電車」を紹介したところ、京都在住の読者から「妖怪電車」についての情報をいただいた。これは明日（8月25日）から東映太秦映画村で始まる「第12回世界妖怪会議」に合わせて、京福電鉄が17日から26日まで臨時に走らせている世界唯一の「妖怪電車」である。

京福電鉄は28両ある列車のうちの1両を改装し、外装は他のものと同じでヘッドマークが違うだけだが、車内に一歩入るとたちまち異界の雰囲気になる。車両内は薄暗く、青白い光がただよっている。車内には40種類以上の妖怪のイラストが貼られ、背筋がぞっとするような効果音が流れている。また、京都市上京区にある「妖怪ストリート」と呼ばれる大将軍商店街の人たちが妖怪に扮して車内に潜入し、恐ろしい雰囲気を演出している。まるで動くお化け屋敷である。

「妖怪電車」は嵐山本線と北野線で、毎日午後4時ごろから夜9時ごろまでに9本運行する。乗車券は大人200円、子供は半額である。妖怪に扮して乗り込む人は、乗車券が50円になる。

京都には、「陰陽師」の安倍晴明、捨てられた器物が妖怪になって夜の街を歩く「百鬼夜行」、嵯峨天皇の皇后、橘嘉智子が死んだ後放置されて朽ち果てた話など、様々な伝説がある。今回の妖怪会議では「ゲゲゲの鬼太郎」の作者、水木しげるさんと、作家の京極夏彦さんのトークショーもあり、大いに期待されている。

乾電池で再び奇跡を

「東京流行通訊」で何度もご紹介したように、パナソニックのオキシライド乾電池で「電池飛行機を空に飛ばす」実験に成功したが、さらに今月初め（8月4日）、茨城県の自動車走行試験場で「電池高速走行」の実験が行われ、平均速度105.95km/hの世界記録を達成し、「市販の乾電池を動力とする世界最速の車」としてギネス世界記録に認定され。

今回の実験では、オキシライド乾電池単3形192本を動力として使用し、実験用の車は全長3300mm、幅780mm、高さ560mm（尾翼の高さは780mm）である。ドライバーはその中でほぼ寝た状態になる。風と勾配を相殺するため、1キロ以上の同一区間を往復し、その平均速度を計測した。

今回運転を担当したのは、大阪産業大学工学研究科二年生の須藤隆君である。寝たような状態で運転すると、ドライバーの体感速度は普通の車に比べて3倍程度に達するという。車体の材質には、鉄の5分の1の重さのCFRPと防弾チョッキに使用される丈夫で軽量のアラミドハニカムを合成した素材を採用した。タイヤにはコンパウンドゴムを使用し、タイヤの空気圧を一般自動車の約2倍に設定した。また、モーターで後輪を直接回転させるダイレクトドライブ方式を採用した。

6月11日から、松下電器と大阪産業大学は、オキシライド乾電池を動力とする車の走行速度の限界に対する挑戦を開始した。松下電器が乾電池を提供し、大阪産業大学が車体の設計、開発を行った。大阪産業大学は、ソーラーカーの国内外のレースでの優勝実績があり、ソーラーカーでのシルクロード横断にも成功している。

ファンタジーを現実に

2003年2月、21世紀の建設業をリードすることを目指して、ゼネコンの前田建設工業は史上前例のない「ファンタジー営業部」を設立した。この部門の5人の正職員と兼業職員は、SFアニメなどに登場する構造物を現実に建築可能かどうかを研究している。彼らの仕事は以下のように説明できる。
１．誰にでもわかりやすく説明する。
２．具体的な施工方法、期間、費用を計算する。
３．建設機器と資材は特別な指定がないという前提で、日常使用するものを用いる。
これらの規則の下に、「科学的にファンタジーを検証する」という試みを行っているのである。

先ごろ「ファンタジー営業部」では、松本零士原作のアニメの中の装置、「銀河鉄道999」の銀河超特急が地球から飛び立つときに使用する高架橋について真剣に検証した。銀河超特急999が宇宙に飛び出すときに使用する高架橋は、地上から空中に伸びて、橋木が伸展する線路を支えており、先端の高さは99.9メートルである。画像を検証した結果、鉄筋コンクリート製の線路の長さは約300メートルであった。これに関して彼らはわざわざJR東日本に問い合わせ、建設が可能であるとの結論を出した。建設費用は37億円、工期は3年3ヶ月だそうである。

またあるとき、海外の謎の大富豪から、「世界で災害とテロが発生したときに活躍する民間の国際ロボット救助隊を組織したい」という電話があった。そこで「ファンタジー営業部」ではNPO法人国際レスキューシステム研究機構（IRS）、全日本空輸（ANA）、オンワード樫山、コマツ、および前田製作所のサポートを得て、各方面の先進的技術を結集した。7月末にはIRSと国内の大学が開発しているロボットの紹介サイトを立ち上げた。8月末にはANAがサイト上で救助隊の輸送に最も適した航空機材、人材、基地などの提案を行う。9月末にはコマツが震災救助用機械に関する提案を行う。10月末には前田建設が基地の詳細について提案する。11月末には、オンワード樫山による救助隊のユニフォームと、現行の最先端の技術で実現した場合に必要な初期費用や維持費が公開される。

これらの「ファンタジーを現実にする」試みは、ネット上で公開されるだけでなく、本として出版されてベストセラーになっている。

前田建設「ファンタジー営業部」　http://www.maeda.co.jp/fantasy/

太陽が照りつけ、蝉の声がとても賑やかだ。日本では観測史上初の、連日40度を超える気温を記録し、熱中症のために20人近くの人が亡くなっている。「酷暑による死亡が相次いで発生！」――異常な夏の気温と新聞の過激な見出しが、人々の神経を刺激する。人と会ったときの挨拶も「暑いですね」ばかりになってしまった。

高温は人の情緒を調整する機能に影響を与え、神経系統も調子が悪くなるようだ。軽い場合は頭がぼんやりしたり元気がなくなったりするだけだが、重くなると心拍に問題が生じ、死に至る場合もある。深刻な状況に対して、環境省では熱中症予防情報サイトを開設して、47都道府県の熱中症危険度を5つのレベルで予測し、対応方法と関連情報を提供している。ビジネスチャンスに敏感なメーカーでは「熱中飴」や「瞬間冷却パック」などという変わった商品を売り出し、テレビやラジオでは、麦茶や梅干やスポーツドリンクをたくさんとってこの厳しい夏を乗り切るようにと呼びかけている。

よく考えてみると、これらの「対策」は「体の熱中症」に偏っていて、「心の熱中症」を見過ごしている。現代医学では、人は興奮するとアドレナリンの分泌が増加して体温が上昇するということがわかっている。したがって炎暑の日には、心を平静に保つことが特に重要で、決していらいらしたり腹を立てたりしてはならず、自分が穏やかでいられるように努めるべきなのである。また飲食では、さっぱりしたものを食べて、脂っこいものや辛いものは避けたほうがいい。仕事や勉強で忙しく、緊張を強いられる現代人にとって、心身の調子を整えることは非常に大切なのだ。

なかなか眠れないときは、気楽な音楽を聴きながら風呂に入って、優雅でのんびりした気持ちでくつろぐのもいい。あるいはゆっくりと読書を楽しみ、静かな時間の中で心の洗濯をするのもよい。もちろん、静かに坐って目を閉じ、心を青い海や銀色の砂、緑の草原へと飛翔させ、心に涼しい風をもたらすのもいいだろう。朝日と共に早く起きて、木々の茂った公園や森を散歩したり、夜になったら、川や湖の岸をそよ風に吹かれながらそぞろ歩いたりすることもできる。

雪山が険しくそびえ、渓流がさらさらと流れる世界遺産、麗江の街に行ったときに買った素朴な茶碗には、どの文字から読んでも意味深長な「心静自然涼」（心が静かなら自然に涼しく感じる）という中国の諺が書いてあった。この言葉には、昔の中国の天人合一の思想（人と自然は一つだとする思想）が含まれている。酷暑を避けることも、酷暑から隠れることもできないし、高温は心をいらいらさせ、眠るのが難しくなる。「心静自然涼」は、慌しい時代に暮らす我々が煩わしいことにいらいらしたり、頭がぼうっとして決断できなかったりしたときに、自分の心を調節する最良の心理的暗示であり、この炎暑の夏を乗り切るための清涼剤なのである。