九十九谷の絶景

無数に連なる山並みと、ゆっくり漂う霧。夜の闇が溶けて朝の光が浮かび上がる。まるで墨絵のような光景が見る者を夢の世界に運び、寒さも時が経つのも忘れてしまう。

千葉県の房総丘陵の、どこまでも連なる山と霧が作り出す幻想的な景観は、日本全国でも有名な「九十九谷（くじゅうくたに）」の絶景である。

二十年前に「房総の魅力500選」の一つに選ばれた。明治時代の文人、大町桂月が「天下の奇観」と絶賛し、中国でも知らない者のいない高名な画家、東山魁夷の出世作「残照」はこの風景から得た感動を元に描いたと言われる。

東京都心の大手町から車を走らせ「東京湾アクアライン」を経て約１時間で、この桃源郷のような名所に着く。東に清澄山（標高377メートル）、南に高宕山（標高315メートル）、西に鋸山（標高329メートル）と、四方を山並みに囲まれた九十九谷丘陵。

毎年秋から冬にかけて、雲海や朝焼け、夕焼けに映える絶景は見応えがある。特に雨上がりの寒い朝は雲海と濃霧が美しく、その白濁した色に朝日のオレンジ色が混ざると化学反応を起こしたように色彩がはじけ、まぶしい光が周囲を圧倒する。

レースカーの最新動向

●環境保護F1マシン

先日ホンダは2007年のF1マシンのカラーリングを発表した。新マシン「RA107」は車体からスポンサーのロゴをはずし、環境問題を連想させる「地球」のデザインを採用。衛星写真を使って制作された青い海と緑の大地が描かれている。パートナー企業に対しては、マシンおよびロゴの使用のライセンス化制度を採用した。また「協賛金の寄付」制度によって賛助金の一部を環境保護団体に寄付する。ネット上ではチャリティを展開し、新たに設けるウェブサイトで一般の人もマシンのピクセルを購入することでチャリティに参加できる。

●みんなのスポーツバイク

日本のオートバイメーカーが、国内外のレースで活躍するオートバイと同型のものを次々に発売し、モトレースファンの需要に応えることでオートバイ市場を活発化させようとしている。ホンダが売り出すのは、「オートバイのF1」と呼ばれる2006年「モトGP」で優勝したホンダチームのものと同色のオートバイで、今月22日に発売される。また、スズキとヤマハ発動機もそれぞれスポーツバイク型の商品を売り出す。

●ITでレースを支援

世界最小のICチップ

日立製作所は2月13日、世界最小のICチップを開発したと発表した。このICチップは、すでに日立が実用化している「ミューチップ」と同じ記憶容量と通信性能を保ったまま、大きさを750分の1にしたものである。薄い紙に埋め込んで有価証券などに応用すれば、偽造防止に用いることができる。この技術は2009年の実用化を目指している。

ICチップは、商品などの識別に使用するICタグの中核部品で、無線によってチップに記録された識別番号を読み取る。人の髪の毛の直径は0.1ミリメートルだが、新しいICチップの厚みはわずか0.005ミリメートルだ！「ミューチップ」と同じように、外部アンテナで受信した電波をエネルギーに変え、記録してある128ビットの情報を読み取り装置に送る。

ほとんど粉末と同じ大きさなので、名刺にURLや名前を埋め込むこともできる。近い将来、この技術が世界に、すべての物を電子化管理する時代をもたらすかもしれない。最近日本で社会問題になっている食品の賞味期限切れの問題も、乾燥剤にICチップを埋め込んでおけば、センサーによって自動的に検出して期限切れの食品を廃棄することができる。またこのICチップを紙幣に埋め込めば、偽札防止になるばかりか、財布の中にいくら残っているか、スキャンすればわかるという時代が来るかもしれない。

本物そっくりのミニピアノ

玩具メーカーのセガトイズでは、4月1日からグランドピアノ型の音楽玩具「グランドピアニスト」を発売する。これはヤマハのピアノ「C5L」を細部まで忠実に再現したミニピアノで、本物のピアノの六分の一の大きさだが、実際に演奏することができる。鍵盤の数は88個で、自動演奏機能で演奏させるとメロディーに合わせて鍵盤が上下する。

ピアノの音色を忠実に再現するため、セガグループがMIDIベースの専用音源を開発している。自動演奏ではMIDIに含まれる音階データが鍵盤を駆動して演奏する。内蔵されたクラシック、ジャズ、ポップスなど100曲以外に、専用のSDカードを使って楽曲を追加することもできる。SDカードは一枚20曲入りで、選曲とプロデュースは葉加瀬太郎氏が担当している。

ピアノ本体はABSとポリカーボネートで作られ、弦やダンパーなど細かいところまで本物のピアノを精巧に再現している。一つの鍵盤の幅は4mmで、88個の鍵盤のそれぞれに駆動用のソレノイド（アクチュエーター）と演奏用のスイッチがついている。また本体下部には、外部入力端子と外部スピーカ連結端子を備えており、スピーカにつないで楽しむこともできる。MIDIデータに含まれる音階情報で鍵盤を駆動するため、アナログ入力の場合には鍵盤の動きがランダムになる。

グランドピアニスト公式サイト　http://www.grand-pianist.com/

「宿坊」と「写経合コン」

現代人はストレスの多い生活パターンから逃れることができない。そんな日本で最近、「宿坊」と「写経合コン」が流行している。舞台となるのは深山の古寺で、宗教体験と悟りによって現代人に魂の楽土をもたらそうというわけである。

西武新宿線の飯能駅からバスで約一時間、渓谷に沿って行くと一つの村にたどり着く。そこにあるのは曹洞宗福王山正覚寺で、宿泊座禅を行っている。宿坊に泊まると、午後5時から座禅が始まる。まずビデオでやり方を学び、それから住職の指導の下、40分間の座禅を行う。住職は棒を持って、座禅を組む人々の背後を行ったり来たりし、集中できない人には棒を使って「喝」を与える。

座禅が終わると、6時から「薬石」（夕食）が与えられ、7時には「開浴」（入浴）し、9字に「開枕」（就寝）する。翌日は5時に起床し、仏前で正座してお勤めを行い、それから40分間座禅を組む。「小食」（朝食）後は、正殿で「作務」（掃除）をする。8時半から「般若心経」を唱え、それから写経をする。一時間かけて、一字一句きちんと書く。最後に、お祈りをしたい人は自分の願いを書いて仏前に供え、これで宿坊の生活が終わる。

世界遺産に指定されている薬師寺では、「写経合コン」が人気を集めている。参加する若者はまず、「結婚」をテーマとした法話を聞き、それから写経によって心身を落ち着かせた後で、ようやく交流が行われる。多くの人が写経の過程で新たな自分を発見し、煩悩を離れることができるのだそうだ。そのため、写経合コンでカップルになる人が半数を超える。

ホワイトデーの朝、私はいつもと同じように冷たい風を突いて、会社に向かって急いでいた。

広い交差点の横断歩道を渡りきった時、突然、後ろの自動車から短い警笛が聞こえた。日本の大都市では、このような警笛の鳴らし方をすることは珍しい。驚いて振り返ると、それは横断歩道の手前に停車していた自動車で、運転手がこちらに向かって何か言っている。

別に事故が起こったわけでもないし、中国でよくやるように警笛で知り合いに挨拶したのだろうかと思った。

不思議に思っていると、車からはまた低く短い警笛が鳴らされた。

『あら！』この時、後ろにいた女性が驚きの声を上げた。彼女と一緒にいた若いスマートな若者が慌てているようすが目に入った。

――このときになって、私は気がついた。横断歩道の中央に、ふわふわとしたイタリア製と思われるシルクのスカーフが落ちているのだ。さっき私が手をつないだ新婚夫婦（？）のそばを通りぬけた時には、そのスカーフは女性の襟元にあったはず。二人は幸せ気分に浸っていて、滑り落ちたのに気がつかなかったのだろうか？

男性は急いで拾いに行こうとしたが、女性が慌てて彼を引きとめた。青信号が点滅していて、停車していた車が動こうとしている。このような交差点で赤信号で飛び出したらどうなるか、彼女にはわかっていたのだ。

私は出勤しなければならないのも忘れて、立ち止まって見ていた。空気が固まったようだった。女性は両目を閉じて、力なく男性にもたれかかった。スカーフの痛ましい運命に耐え難いというふうに。

信号は変わり車が流れ始めた。この瞬間、先頭の車が奇妙な動きをした。かすかに右に寄り、大きな弧を描いて、目の前のスカーフをよけてから、左に戻って走り去ったのだ。それに続く車も、ちょっと戸惑うように停車してから、やはりスカーフをよけて走り去った。一台、二台、三台……

信号が再び変わったとき女性は男性の手を振り切って横断歩道に走って行き、無傷のスカーフを拾うとしっかり胸に抱きしめた。彼女の春のような笑顔を見て、あのスカーフは今朝彼がプレゼントしたばかりのものかもしれないと思った。