車椅子と言うと、誰もが病院やギブス、患者が車椅子に乗るのを助ける看護師などのイメージから離れられない。車椅子の人と、それをどこまでも押していく人とのロマンチックで感傷的なイメージを連想する人もいる。だが怪我をした人や病気の人にとって、入院して治療を受ける時間は人生の中の一部に過ぎないし、友人がいつも付き添って身障者のように介護することを望んでいるとは限らない。生涯にわたって車椅子を必要とする人々にとっても、車椅子はもっと自由で便利で生活しやすいものとなり、彼らが一人で活動したり、周囲と関わったり、自由に行動したりするのを助ける道具であるべきである。
井上和夫さんの友人、吉田さんは、筋ジストロフィーを患って車椅子なしでは生活できなくなった。このことをきっかけに井上さんは身障者のための仕事に取り組み始め、数年の研究開発の結果、スマートで生活しやすい木製の電動車椅子や、車のシートを使った4輪駆動車、横方向に動く全方位車などを開発し、友人の名前を取って「吉田いす」と名付けた。吉田いす「ローズ・ティルト」は従来の車椅子のような金属の冷たい外観ではなく、見える部分はほとんど木質構造であり、温かい感触で、生活の雰囲気ともぴったり合っている。全体の体積も普通の電動車椅子より小さく、ユーザーは自由かつ柔軟に操作して狭いところにも入ることができる。全ての吉田いすは電動車椅子としての機能が完備し、前進と後退の速度が調節できるなどの基礎的機能を備えている。また、MoonWalkといういすは横方向の水平移動や座席の高さの調節も可能になっている。これらの機能はすべてユーザーの立場に立って開発され、操作は簡単でユーザーの気持ちに沿っており、患者の身体上の要求を満たすだけでなく、一人で生活するための尊厳と自由を与えている。
身体の自由が利かない人々にとって、心理的なストレスが彼らに与える苦痛は、身体的不自由そのものより大きいとは言えないかもしれない。駅の改札機が常に右側にあって左利きの人に便利な左側にはないのと同じように、この世界では多くのものが多数者のために作られている。そのため、「少数者」がもっと健康的かつ便利に、自信を持って自由に暮らせるようにすることは、「多数者」が常に追求すべき課題であり、一つの国が人に優しく人道的であるかを世界が判断する指標の一つともなっている。欧米では、身体が不自由で車椅子で生活していても、充実した生活を送っている人は少なくない。そして吉田いすが作られたのは、正に日本、アジア、そして世界各国の身体が不自由な人々にもっと快適で楽しい生活を送ってもらうためなのだ。一般の人々が普通にできることをするのに、身障者は何倍もがんばる必要があるかもしれないし、現在の科学技術のレベルではまだ彼らを助けることは難しいかもしれない。しかし、楽観的にできる範囲でがんばり、毎日の生活を愛することが、身障者であるか健常者であるかを問わず、すべての人々の共通の人生の主旋律であることを願っている。(李薊執筆)